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大阪地方裁判所 昭和33年(ヨ)769号 決定 1958年7月17日

七六九号申請人・八七六号被申請人 関西主婦連合会

八七六号申請人 松本晴子 外七名

七六九号被申請人 総評大阪医療労働組合

主文

一、昭和三三年(ヨ)第七六九号事件につき、申請人関西主婦連合会が被申請人総評大阪医療労働組合に対し金十万円の保証を立てることを条件として、

(一)  別紙目録記載の建物(ただし、同建物中同目録添付図面表示の一階における内職斡旋所、太田八千代の居室、同図面斜線を以て表示する被申請組合都島支部の組合員松本晴子同松岡喜久江の居室同二階における組合員鶴窪幸枝、同北口みさ子の各居室、同稲福きみ子、同川谷公子の居室、同三階における組合員井川鈴江の居室を除く)につき被申請人組合の占有を解いて、申請人の委任する大阪地方裁判所執行吏の保管に付する。

執行吏は、右組合員に対しその各居室の使用に必要な限度において、同建物内の便所、二階炊事場、洗面所(以上いずれも右図面中斜線を以て表示する部分)及び出入口への通路の使用を許さなければならない。

(二)  執行吏は、申請人の申出があるときは、その使用を許すことができる。

被申請人組合は、申請人の右使用を妨害してはならない。

(三)  執行吏は第一項の保管にかかることを公示するため適当な処置をとらなければならない。

二、昭和三三年(ヨ)第八七六号事件につき、

申請人松本晴子等の申請を却下する。

三、右両事件の申請費用はこれを二分し、その一を被申請人組合、その余を申請人松本晴子外七名の負担とする。

理由

第一、申請の趣旨

一、昭和三三年(ヨ)第七六九号事件

(一)  別紙目録記載の建物に対する被申請人総評大阪医療労働組合(但し同組合都島支部組合員松本晴子、鶴窪幸枝、北口みさ子、井川鈴江、川谷公子、稲福きみ子の六名を除く、以下同じ)の占有を解いて、申請人関西主婦連合会の委任する大阪地方裁判所執行吏の保管に移す。

(二)  執行吏は右建物がその保管にかかることを公示するため適当な方法を採らねばならない。

(三)  同被申請組合は右建物内に立入り或はその出入口に人垣を築き、その他申請人関西主婦連合会が右建物を使用することを妨害してはならない。

二、昭和三三年(ヨ)第八七六号事件

(一)  被申請人関西主婦連合会は別紙目録記載の建物中別紙図面斜線部分の居室に対する松本晴子等各申請人の占有を妨害したり、居室に対する電気及びガスの供給を停止し、居室の畳を収去する等、その使用を妨害する行為をしてはならない。

(二)  同被申請人は同申請人等が右建物に出入する行為を妨害してはならない。

第二、当裁判所の判断

当事者双方の提出した疎明資料により一応認定した事実関係並びにこれに基く判断は次のとおりである。

一、社会福祉法人都島友の会(以下単に友の会という)がその経営する都島病院(以下単に病院ともいう)の従業員を解雇するに至つた経過

(一)  友の会は社会福祉事業を目的とする法人で、その事業の一として都島病院という名称の下に医療事業を行つてきたのであるが、経営難を理由に昭和三二年八月末日をもつて右病院を閉鎖し、当時右病院の従業員であり且つ被申請人総評大阪医療労働組合(以下単に組合という)都島支部の組合員であつた申請人松本晴子外七名(以下単に松本等という)を含む従業員を解雇した。そこで松本等は友の会を相手方として右解雇が不当労働行為であることを理由に、大阪地方労働委員会に対し救済命令の申立をなし、同年一〇月頃同委員会より松本等の原職復帰、賃金支払等につき救済命令が発せられたが、友の会はこれに従わず、他方松本等は同様の理由で右解雇の無効を主張して大阪地方裁判所に対し地位保全等の仮処分の申請をなした結果、同年一一月一六日当事者間に別紙和解条項どおりの裁判上の和解が成立した。

(二)  友の会は松本等に右和解条項第三項に定められた休業手当を、所定の日時より多少の遅延をみながらも支払つてきたが、同和解条項第四項により努力すべきことを要請せられた病院の再開については、再開のための資金並に医師の獲得が至難であること、病院の収入の途がなくこのまま荏苒日を過すときは休業手当の支払さえ不能となりさらに多額の既存債務のために破産の已むなきに至ること、監督当局の意向としては社会福祉法人の医療事業は遂次廃止の方向にあり再開について許可を得る見透しは殆ど絶望であること等を理由に、組合に対し再開についての協議のため団体交渉の申入をなし、昭和三三年一月一一日、一八日、二七日の三回にわたり組合と団交を重ね、友の会側より再開不能の事情について種々報告説明がなされたが、結局組合の納得を得られないままに終つた。そこで友の会は再開不能の事情について組合の納得を求めることは不可能と認めて、右和解条項第五項による従業員の整理及び退職金についての協議に入るため、同年一月三一日附をもつて組合に対し右の点についての協議のため団交を申入れたがこれを拒否され、さらに同年二月六日、一二日、一九日の三回にわたり重ねて右の点についての団交を申入れたが、これまた友の会の病院再開についての努力に誠意なく到底客観的に再開不能とは認め難いから従業員の整理、退職金についての協議には応じ難いとの理由でこれを拒否されたので、友の会は同月二七日附で松本等を含む全従業員を解雇した。

二、友の会と申請人関西主婦連合会(以下単に主婦連という)との関係並びに主婦連の別紙目録記載の建物(以下単に本件建物という)に対する占有関係

主婦連は昭和二五年に創立され現在約三五、〇〇〇名の会員を擁する婦人団体(権利能力のない社団)で、比嘉周子は昭和二六年その二代会長に就任以来引続き会長の地位にあるとともに、友の会創立以来その理事長を兼ね、友の会理事藤井登美恵、入江正子はそれぞれ主婦連副会長、厚生部長、友の会監事鈴木美弥子は主婦連西区支部長の要職にある。友の会は叙上のとおり昭和三二年八月末日限り本件建物における病院の経営を休止したが、当時主婦連は本件建物附近にある友の会の経営にかるか都島児童館内に設置していた事務所の狭隘を感じていた折柄、本件建物を友の会より賃借して事務所等に充てるべく、同年一〇月初旬頃友の会との間に、賃料一ケ月一八、〇〇〇円但し右は友の会が主婦連より借用している百数十万円に対する利息の支払と相殺すること、友の会が再び本件建物を使用する必要の生じたときは一ケ月以前に予告すれば主婦連は異議なくその明渡に応ずること、従前からの従業員で、当時建物内に居住する松本晴子等の居住を認めること等の約定の下に、本件建物を借受ける契約を締結し(但し契約書は同年一〇月三〇日附で作成)、その頃から本件建物の一部(別紙図面参照)を主婦連事務局、内職斡旋所、新聞部の部屋等として現実に占有使用してきた。そした主婦連は本件建物を借受けるに当り併せて右建物に備付けてあつた病院の医療器具、什器、保存書類等の保管を友の会から委託されたのであつて、同年一一月初旬頃からは従来本件建物に居住している主婦連内職斡旋部主任太田八千代が各室の鍵を一括保管し本件建物の直接的な管理事務に当つてきた。一方友の会は本件建物を賃貸して後も、暫時少数の人数の入院患者を本件建物に残留せしめ且つ約一ケ月間事務長依田壮介等をして右建物において残務整理に当らしめたが、残留入院患者が転出し同年一一月初旬頃病院事務所を前記都島児童館に移して後は、組合との団体交渉に当り本件建物の一部を使用した程度に止り現実に右建物を使用していない状況である。

三、組合都島支部の組合員中本件建物に居住する松本等の居住状況

松本等はいずれも病院の従業員であつて昭和三二年八月一五日従業員中の一部をもつて組合都島支部を結成し、松本がその支部長となつたものであるが、同人等は従前より附属寄宿舎のような形で本件建物に居住して病院に勤務していたところ、叙上のとおり昭和三三年二月二七日友の会より解雇通知を受けて後も依然として主文第一項掲記の本件建物の一部(別紙図面参照)に居住を続け(但し日下部松岡は殆ど起居することがない)、アルバイト等によりその生計を維持している。ところが友の会は主婦連の意を承け本件建物全体への点灯は経費が嵩むところから同年一月以降松本等の居室については電灯を臨時灯に切替えた外、松本等を解雇して後の同年三月初旬頃には直接又は主婦連を通じて同人等に対し本件建物からの退去を要求したり、右臨時灯の契約期限が同年四月初旬に切れるのに対し右期限は更新しないことを配電会社に申入れたり等した。又一方主婦連は松本等に対し火災予防の見地からとしてガス以外の火気の使用を禁止すること、直接の管理担当者太田の立場上本件建物への門限を午後五時半にすること等を申入れ、さらに同年三月下旬頃には、同年四月九日大阪市において開催予定の主婦連主催の第二回消費者大会に近接各府県の会員が来阪するに当り、その宿泊所に本件建物を利用するため松本等の居室にある畳の一時提供方を要求した。しかしながら松本等は右要求申入に応ぜず、友の会、主婦連も右要求申入どおりの事項を実力をもつて強行しないまま経過し、同年三月二九日友の会と組合との団交において右の諸点が問題とされ、友の会より同月三一日それ等の点についての回答がなされることが約束された。

四、昭和三三年三月三一日本件建物において起つた紛争の状況並びにその後における紛争の経過

(一)  松本等並びに組合は、友の会が前記和解条項において要請されている病院の再開について誠意ある努力を払わず、再開のための融資、医師の斡旋についての組合の申出に対しても偏見をもつてこれを拒否し、客観的に再開不能の状況にないにも拘らず一方的に松本等を解雇したもの、又そのような経過でなされた解雇後において、友の会並びに主婦連が本件建物に居住する松本等に対し電灯、ガス、畳の使用、門限等について叙上の如き要求申入をなすのは、不当に同人等の居住権等を侵害するものとして、右解雇の無効確認、和解条項で定められた解雇後の平均賃金六十パーセントの休業手当の支払要求、居住権の侵害排除を名目として、組合は総評大阪地評指導の下に、同年三月三一日午前八時過頃総評傘下の他の労組員等の応援を得て総勢七、八十名を動員して本件建物の内外にピケットラインを張り、その中相当数のものは本件建物に立入り、主婦連事務局で執務中の主婦連事務局長武田好子、後から入場した主婦連副会長藤井登美恵を取囲み同人等に対し本件建物からの退去を要求し、同人等がこれを拒否するやその肩や背を押すようにして同人等を本件建物外に押し出した。その頃紛争を聞知して本件建物に馳せつけた友の会事務長依田壮介も入口のピケ隊に入場を阻止され、その混乱の最中に治療四、五日間を要する傷害を受けた。又同日午後四時頃主婦連事務局員松井恵美子、中尾美智代、奥田貞子等が本件建物に立入ろうとしたところ同じく組合員等によつて入場を阻止され、同日夜も数十名のものが本件建物を占拠したままの状況であつた。

(二)  その後四月一日、二日は略々同数のものが動員され、同月五日頃からは応援労組員の人数も滅少したが、同月七、八日頃までの間本件建物に立入ろうとする主婦連事務局員等はいずれも組合員等によつてその入場を阻止された。その後主婦連事務局員等も入場を断念してか本件建物への立入りを試みていないので、本件建物において双方の間に格別の紛争も起つていないが、一方組合も同月一〇日頃からピケラインをゆるめ、最近においては昼間は一、二名、夜間は五、六名の組合員、応援労組員を本件建物に駐在せしめているに過ぎない。右紛争前から本件建物に居住していた前記太田八千代は、右紛争時にも本件建物から退去せしめられず、その後も依然右建物内の内職斡旋所居室(別紙図面参照)に居住使用し、主婦連内職斡旋主任として本件建物において被斡旋者の大幅の減少をみつつも幸うじて内職斡旋の事務を続行しているが、主婦連のその他の事務は前記都島児童館等で行わざるを得ない状況にある。

五、組合によつて惹起された前記紛争の当否並びに主婦連が求める仮処分の必要性

叙上認定の諸事実に徴すれば、昭和三二年一〇月初旬頃主婦連が友の会より本件建物を賃借し兼ねてその管理を委託され、同年一一月初旬頃友の会が病院事務所を本件建物から都島児童館に移してから後は本件建物全体について主婦連が直接その占有を取得するに至つたと認めるのを相当と解する。

企業が休業中であつても、労働者が使用者に対し企業の再開を要求し或は休業中の解雇の不当を訴えるため又は使用者が労務契約の内容になつている附属寄宿舎等に居住する従業員に対し理由なく立退を求めたり居住に必要な諸施設の利用を不当に妨げたりした場合、労働者が使用者に対しその不当を訴えこれが是正を求めるため、相当な方法で抗議し或は団体交渉を要求し場合により抗議デモを行う等団結の示威に訴えてもそれが平和的な相当な方法である限り当然許容さるべきであると解するが、操業中の場合と異り、ストライキ、またはその補助手段として行われるピケッティング、職場占拠等の争議手段は、使用者においてとくに必要があつて従業員に出勤を命じたような例外的な場合を除いて、通常これを行う余地がないことは、争議行為によつて阻害されるべき正常な業務運営が初めから存在していないことからみても明らかであり、また一般に争議行為の許される場合にあつても、それが直接第三者に対して向けられるような手段は、第三者が不当に争議行為を妨害する等特段の事由ある場合を除いて、これ亦許されないものであることは、第三者と組合との間には、もともと団体交渉によつて解決すべき労資間の紛争がないことに徴しても当然であるといわなければならない。いまこれを本件に即して考えてみるのに、組合が昭和三三年二月三一日以降本件建物において、とつた行動は、解雇無効確認、和解条項に定められた休業手当の支払要求、松本等の本件建物における居住権の確保等を名目として行われたものであるところ、その態様は、前記の如く休業中の使用者に対しても許される抗議をし団結の示威に訴えたというよりは、むしろ操業中の争議手段たるピケッティング、職場占拠の形態をとつたものというを相当とし、しかも強力な実力行使に出ているのであつて、勿論争議手段としてもその正当性が問題になるのであるが、その点はともかく、本件では、かくの如き争議手段自体が許される余地がないものというべきのみならず、使用者友の会の占有しない本件建物において、第三者たる主婦連に対し向けられた実力行使である点においても亦違法であるというべきである。もつとも主婦連会長比嘉周子は友の会理事長を兼ね、その他主婦連の役員中には友の会の役員を兼任しているものがあり、特に比嘉周子の組合に対する行動の中には動もすれば友の会理事長と主婦連会長の各地位を状況に応じて有利に使い分けるかの感を与えるものがあつたこと、又前記昭和三二年九月に行われた病院従業員の解雇後、主婦連はその機関紙「関西主婦新聞」紙上に再三にわたり友の会と組合との間の紛争に関し、組合・総評大阪地評等の態度を攻撃する記事を掲載したこと等に徴すれば、組合として主婦連を友の会と全く無縁の第三者とみなし得ず、むしろ友の会と共謀ないし同調して組合に当るものとみなしたことは、ある程度無理からぬことと考えられるが、両者その主体を異にし、形式上は勿論実質上も同一性を認め難いのであるから組合として松本等に対する前記解雇の無効を主張し、休養手当の支払を要求しこれ等に対する不誠意を難詰しようとするならば使用者である友の会に対しなさるべきであり、前記主婦連の介入的態度を理由に、これに対し実力行使に出ることは、争議権の侵害が問題とならない本件においては、とうてい許されないところであるというべく殊に組合の重視する主婦連の本件建物への移転は前記和解成立前のことに属し、しかも移転にあたり、友の会が将来本件建物を必要とするときはいつでも明渡す約定がなされているのであつて、別に友の会と共謀して故らに本件建物における病院の再開を阻害する目的であつたとも認められず、又後記認定のとおり主婦連が松本等に対し採つた行動も、多少嫌がらせ的なところがあつたとしても、別に暴行脅迫その他急迫不正な侵害を加えて同人等の居住を妨げたとも認められないのであるから、前記組合の行動を正当づける根拠は全くないものといわなければならない。従つて、昭和三三年三月三一日組合の採つた前記行動は、主婦連の本件建物に対する占有を違法に侵奪したものと認める外ない。その後同年四月一〇日頃に至る間はピケ隊の人員が漸次減少した外略々同様の状態であつたが、その後組合はピケをゆるめ内職被斡旋者の出入を許し、現在においては少数のものを本件建物に駐在せしめているに過ぎない状況であるが、さりとて、本件建物における主婦連の占有が回復せられたわけでなく、主婦連において、組合に対し、その明渡請求権を有すること勿論であるから、組合に対し、本件建物の占有解除、執行吏保管、主婦連の使用許可、右使用に対する妨害禁止等の仮処分を求めうる被保全請求権のあることはいうまでもない。

もつとも本件建物における紛争の現状に照してみるとき、一見極めて平穏にして主婦連において本件建物に立入り執務しようと思えば、障害なくこれをなし得るようにも考えられるが、組合は主婦連事務局員等の本件建物への立入を阻止する意図を放棄した訳ではなく、今後主婦連において本件建物への強行立入を企図するならば、組合は組合員、応援労組員を動員して叙上三月三一日の状況を再現する虞が十分あると認められ、またそのため主婦連は、手狭な都島児童館での執務を余儀なくされて支障を来している外、内職斡旋業務も組合の占拠する本件建物では利用者減少し、その担当者太田八千代も組合の圧力に悩んでいるのであるから、右事態を排除するため、前記仮の地位を定める仮処分をなすべき必要性の存することも明らかである。

従つて主婦連が組合に対し金十万円の保証を立てることを条件として主文掲記の仮処分を命ずることとする。

六、本件紛争後の松本等の居住状況並びに同人等の求める仮処分の適否

松本等は前記紛争後も依然として本件建物中の従前の居室に居住し(但し日下部、松岡は殆ど起居していない)従来使用していなかつた一階炊事場も応援労組員が駐在する関係もあつてか使用しているが、右紛争直後本件建物におけるガス、電灯の使用量が一時に大幅に増大したため、友の会又は主婦連は使用料の増額をおそれるとともに組合の行動に対する憤激も手伝いガス会社、配電会社に対しガス、電灯の供給停止方を申入れ、そのためガス会社、配電会社の手により供給停止の措置が採られようとしたが、組合の折衝により組合でその費用を支払うことを約して停止は実行されなかつた。

そのほか前叙のとおり本件紛争に至るまで友の会或は主婦連から松本等に対し、本件建物からの退去、臨時灯の期限更新拒否、ガス以外の火気の使用禁止、門限、畳の提供等につき要求や申入がなされ、その間友の会主婦連の態度に多少嫌がらせの感を与えるものがあつたことは否み難く、特に退去要求について松本等としては、友の会の病院再開についての努力が不十分にして誠意なく、再開可能の状況にあるにも拘らずなされた解雇ひいては右退去要求は不当であると考えたことにも無理からぬ面があるが前記要求、申入は友の会、主婦連として上記の如くそれ相当の理由に基くものであり、故らに松本等の本件建物での生活、居住を困難ならしめる目的でなされたものとは認め難く、又いずれも要求、申入をなしたに止りその間脅迫的な言辞や暴行行為があつたことも認められず、なおこれ等要求、申入事故を実力をもつて実行したこともなかつた。さらに前記紛争後のガス会社、配電会社に対する供給停止の申入は、本件紛争直後の異常な感情の下に異常状態に対処するために採られた措置であつて、強いてこれを非難するに値せず、又組合の折衝により供給停止は実現されずに終つている。

叙上の事実によれば、松本等としては本件建物内居室の占有使用を主婦連により現実に妨害されたものとはいい難く今後も主婦連の良識に期待するならば妨害の虞もないものと認められるので、松本等の本件仮処分申請はすべてその理由がなく却下を免れない。

よつて、申請費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十三条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 金田宇佐夫 戸田勝 武居二郎)

(別紙一)

目録

大阪市都島区都島本通四丁目二十番地

家屋番号同町第二三三ノ二番

一、木造スレート葺二階建診療所

建坪  三十五坪七合九勺

二階坪 三十五坪七合九勺

附属建物

一、木造セメント瓦葺二階建診療所及病室

建坪  八十坪八合四勺

二階坪 八十坪八合四勺

(別紙二)<省略>

(別紙三)

和解条項

一、被申請人社会福祉法人都島友の会は申請人等十一名に対し、昭和三十二年八月二十九日附の解雇の意思表示並びに同年十月十日附申請人松本晴子同鶴窪ナチエに対する解雇の意思表示をいずれも撤回し、申請人等十一名が被申請人社会福祉法人都島友の会の従業員たる地位を保有することを確認する。

二、被申請人社会福祉法人都島友の会は、当分の間、都島病院を休業するものとし、申請人等は右休業の事実を認める。

三、右休業期間中、被申請人社会福祉法人都島友の会は、申請人等十一名に対し、別表記載の一ケ月の平均賃金の六十パーセントに相当する休業手当を毎月二十五日に支払わなければならない。

但し、申請人等が解雇予告手当としてすでに受領した金額については、昭和三十二年九月分の百パーセントの休業手当に充当するものとする。

四、被申請人社会福祉法人都島友の会は、早急に病院業務の再開に努力するものとし、遅くとも昭和三十三年四月一日を期して再開するよう誠意を以て努力すること。

五、諸般の事情から客観的に右病院業務の再開が不能のときは、被申請人社会福祉法人都島友の会は従業員の整理および退職金につき組合と協議するものとする。

右協議がととのわない間は、被申請人社会福祉法人都島友の会は、申請人等に対し第三項の休業補償を継続して支払わなければならない。

六、本件紛争が、この和解により円満に解決した以上、当事者双方並びに申請人等の所属する組合は、相手方の名誉、信用を傷つけるような言動をしてはならない。

註一、別表省略

二、当事者の表示は当該事件の表示に従つた。

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